去年の2月
自分と彼女はデートで湯布院を目指していた。
湯布院は美味しい食べ物屋やお土産屋の立ち並ぶ商店街があり、また温泉宿なんかも有名で外国人観光客も多い大分の観光スポットである。
ただ大分市内からは結構遠く山ひとつ越えた場所にある。
その日は少し曇りで午後から小降りの雨の予報もあった。
目的地を目指して山間の道を走っていると、ほどなくして予報通りフロントガラスに小雨が落ち始め山頂近くになるとそれは小振りの雪に変わっていった。
「轍が見えなくなったら危ないな」
そう思いながら慎重に車間距離を取り轍を踏み外さないようにスピードを落としてゆっくり前の車に追従する。
やがて下り坂が終わり、目的地にほど近い拓けた山野の中の一本道を走る辺りまで来ると道路の上には薄く雪が積もり始めた。
本当に路側帯すらない一本道で引き返すにしても路肩の広い場所まで行かなければ無理な状況。
まあ轍さえ外さなければ…
そう思いながらアクセルを踏み過ぎないようにゆっくりと真っ直ぐ…ただ真っ直ぐ進んでいた
しかし突然なんの前触れもなく後輪が横に流れ始め車のコントロールが出来なくなったのだ
こんな時は慌ててハンドルを切ると逆に車はスピンしてしまうので出来る限りブレーキもアクセルも踏まず、ハンドルは真っ直ぐに戻して…
とかやってる間に車は狭い道路の上で約180°方向を変え、道路脇の土手の方に向かってゆっくりと滑って行く。
お、落ちる!?
脳内はパニック寸前だったがどうする事もできないまま左前輪が道路から落ちて車は止まった。
その間、彼女はずっと静かに状況を見守っていて車が止まった時に始めて小さく溜息のようなものをついたと思うが全く焦ってはいない様子だった。
「ごめん、どうしようか」
取り敢えずJAFに連絡して…
幸い車はほぼ180°回転していたので道路を堰き止めてはいなかったし交通量も多くはなかったので通行する方々に迷惑はかけるが問題はなさそうだった。
なのでそのままJAFを待つことにする。
状況を確認し車に戻ると彼女はスマホを自分に向けて
「待ってる間ヒマなので映画でも観ましょうか」
と、とても21歳とは思えないほど落ち着いた様子で逆にその状況を楽しんでいるようにも見えた。
後編へ続く