彼女は自分の誕生日に毎回サプライズを企てる。
付き合って最初の誕生日には車もないのにそこそこ遠い自分のアパートまでバスで来てこっそり忍び込み、料理を作る計画をしていたそうだ。
しかしサプライズをより演出するために前日から一切の連絡を断とうと思いついたらしく、唐突に彼女からの連絡が一切無くなった自分が耐えきれずファビョってしまった結果、彼女を泣かせてしまって大失敗に終わった(ええ黒歴史です)
その翌年の誕生日。
いつも通り仕事中に何度かLINEを送るが返信がない。
「またか」
そう思いつつも一抹の不安を感じ、抑えても抑えてもその不安は大きくなってくる。
しかし去年の経験で自分も少しは大人になったんだぜ?と自分に言い聞かせながら(逆に40歳でまだ大人じゃなかった事の方が問題)やがて仕事が終わる時間になると、やはり全く落ち着かなくなり胃が痛くなってきた。
終業時間にスタートダッシュで職場を飛び出し、スピード違反で捕まりそうな速度で帰路を駆け抜けて自分のアパートが見える辺りまで来ると部屋の窓に灯りが点いていない。
もうその頃には自分の不安は頂点に達し「何かトラブルに巻き込まれて家まで辿り着かなかったのではないか」と言う考えが火花のように脳内を飛び交っていた。
駐車場に着き車庫入れも適当に車を飛び出して走ってアパートの階段を駆け上がる。
そこで目に飛び込んで来たのは自分の部屋の扉の前で両膝を抱えてうずくまる彼女の姿だった。
「どうしたん!?」
慌てて駆け寄り肩に手をかけると顔を上げた彼女は大粒の涙をぼろぼろ零しながら絞り出すような声で
「カギ…わすれた…」
と、しがみついて来た。
もう正直ホッとしたのと呆れたので膝から崩れ落ちそうになりながら部屋の中に招き入れ、そこからは泣きじゃくる彼女をなだめるのに必死だった。
はい、ツッコミどころ満載ですね。でもここは堪えてください(笑)
ちなみにスマホの充電は途中で尽きてしまったそうです。
聞けば向かいの部屋のご夫婦が時々ドアを少しだけ開けて彼女の様子をうかがっていたそうで、あらぬ誤解を招いていたとすればこの先のお付き合いに支障をきたしかねないなとか頭痛がしそうな考えが脳裏をよぎった(が無視した)
…本当、マンガのドジキャラみたいな子である(まあそこがまた可愛いのだが)
サプライズと言えばサプライズだったが、こう言うサプライズはこの年限りにして欲しいものである。