ところで彼女はよく悲運に見舞われる。
学校の研究で徹夜してパウンドケーキを作り、それを持って行く途中で車が撥ねた水溜りの泥水を頭からかぶって台無しにしてしまったり、バイトの帰りに酔っ払いに絡まれて胸を触られたり傘を新調する度に盗まれたり。
特にバイト場所が居酒屋のため仕事が終わるのは真夜中でそれから飲み屋街を抜けて暗い裏通りを通って帰るので心配事が多い。
一度など体調が悪くバイトを早上がりして帰る際にお腹をさすりながら歩いているとワンボックスカーの運転席から若い男が顔を出し話しかけて来て
「ねえねえお腹痛いの?乗っていく?」
歩く速さに併せて車で並走しながらしつこく話しかけてくるので無視していると…
「なあ、無視すんなって」
「聞こえないのか?オーイ!?」
だんだん語勢の荒くなる相手に恐怖を覚えた彼女は走って車両進入禁止の道に逃げて慌てて自分に電話してきた。その時自分は既にベッドの中で次の日の朝5時からの仕事に備えていたのだが、そのまま電話を切らないように言っていつでも飛んで行ける準備をしたものだったがその時は幸い大事には至らなかった。
それからと言うものの彼女のバイトが終わると自分は自分が安心して眠るために可能な限り迎えに行った。
また、傘を持たずに大学へ行った日なども自分が強引に車で迎えに行った。
とにかく少しでも会える時間と理由があればそれを言い訳に彼女の家に足繁く通い、少しの時間でも会うようにした。
歳が離れている分、彼女の存在が可愛くて有り難かったのは言うまでもない。
まあ自分が飽きるほど独りの時間を過ごしてきて新しい興味の対象を得たことでそれに全力で没頭しているだけだとも思われるかも知れないが。
何をしている時でも、考え始めると心配事はどんどん溢れてきて帰り道に自転車でコケたりしないだろうかとか事故に遭わないだろうかとかもっと若くてイイ男に声をかけられたら付いて行っちゃうんじゃないだろうかとか妄想が止まらなくなってついついLINEの回数が多くなった。
良い歳して思春期真っ只中な悩み事を職場で上司に洩らすと「青春してるね」とニヤニヤしながら言われた。
内心は全然笑いごとじゃないんですけど…
つづく