独りで食事を作っている時に失敗した料理の写真を撮って彼女にLINEで送ると笑いながら「食べてみたい」と異な事を言う。
自分の作った料理を彼女に「美味しい」と言って食べてもらえるのは理想だ。
しかし相手は豊富な調理経験をもつ大学3年生。妙なモノを食べさせたらそれが原因で別れ話に発展したりし兼ねない(ンな訳ゃない)
慎重にレシピを吟味しつつ出来るだけ誰が作っても出来に差が出なさそうな料理を探して何度か練習をした。
正直一番最初に彼女に作ってあげたものは今はもう思い出せないが必死にクッ○パッドなどで調べてパスタなどを作ったりしたと思う。
…だってサラっとパスタ作れる男ってカッコいいじゃないですか。
しかし予想に反して彼女は何を作ってもどんなに微妙な料理であっても美味しいと言って全て残さず食べてくれた。
そしてそれで調子に乗った自分は色んな料理に挑戦し、たまに失敗しながらも調理の経験を積んで行くのだった。
そしてある時自分はある事に気づく。
「あれ?彼女の料理食べたことないや」
自分の作った料理を彼女に美味しいと食べてもらうことが理想なのと同じくらい彼女の手料理を食べたいということは大抵の男の夢じゃないだろうか?
ある時いつも通りウチで彼女に料理を作りながら「たまには○○ちゃんの作った料理も食べてみたいな」と言うと明らかに表情が曇って
「私の料理は美味しくないですよ?」と言った。
いやいや…調理系の高校を卒業し、今も管理栄養士を目指して日夜勉学に励む大学生の料理が美味しくないとかそんなギャグ漫画みたいなオチがある訳ない。
しかし無理強いする訳にもいかずそれからもずっと自分が料理を作って彼女に食べさせる日々が続いた。
なんとか彼女の作った料理を食べてみたい。
だがその機会はなかなか訪れず哀しくも自分の料理の経験は上がっていった。
そんなある日、自分が体調を崩してしまい数日の間ろくに食事ができなかった事があった。病み上がりにいつも通り彼女の家に迎えに行くと彼女はひとつのタッパーを自分に手渡してきて
「筑前煮です。私が作りました。あんまり美味しくないと思いますが良かったら食べて下さい」
思いもよらず降って湧いたチャーンス!
家に着いて一緒にDVDを観てお腹が空いてきたのでその(待ちに待った)筑前煮を食べる事にした。
レンジで温め小鉢に取り、いざ実食。
「お、美味しい…」
彼女は「ほんとに?」と訝しげに眉をひそめる。しかし本当に美味しい。
結構量もあったその筑前煮は次の日からしばらく会社に持って行くお弁当のおかずになりました(笑)
そして翌日。
彼女の作った料理を食べたいと日頃から職場で洩らしていたこともあって彼女の筑前煮の話題は次の日の仕事中すぐに話題になった。
「筑前煮とか家庭的やな」
自分もそう思う。
料理に自信がない子が作るにしては地味で微妙な味付けが要求される品目を選んだと思う。
まあそこは得意不得意に関係なく料理経験豊富な女の子。別段不思議でもない。
ともあれ願望のひとつが叶って満足し、それからも自分の料理修行は続くのであった。
つづく